テニスをやり始めた初心者から高いレベルで競技を行うプロスポーツ選手まで、多くの方を悩まされるテニス肘。
あなたは、テニス肘の正しい治し方を知っているでしょうか?
単にテニス肘と言っても、バックハンドとフォアハンド、どちらで痛めたかによって対処の仕方は変わってきますので、今回はそれぞれに合わせたテニス肘の治し方を解説していこうと思います。
テニス肘とは?
では、実際テニス肘とはどのようなものなのでしょうか。
日本整形外科学会のホームページには、このように記載されています。
中年以降のテニス愛好家に生じやすいのでテニス肘と呼ばれています。
一般的には、年齢とともに肘の腱がいたんで起こります。病態や原因については十分にはわかっていませんが、主に短橈側手根伸筋の起始部が肘外側で障害されて生じると考えられています。
「テニス肘(上腕骨外側上顆炎)」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる
こちらは主に肘の外側に出る痛みについて解説されていましたが、実際には内側に出るテニス肘もあるため、別名として肘の外側に出るものを「上腕骨外側上顆炎」、内側に出るものを「上腕骨内側上顆炎」と呼んだりします。
バックハンドテニス肘(上腕骨外側上顆炎)
バックハンド型テニス肘の場合は、手首を背屈させたり中指を伸ばしたりする時に、肘の外側にある「外側上顆」という所に痛みが出ます。
その名の通りバックハンドを繰り返すと発症するのですが、何年もやっている熟達者より、比較的初心者の方が発症しやすいスポーツ障害です。
上腕骨の外側上顆には、短橈側手根伸筋、総指伸筋、尺骨手根伸筋という3つの筋肉が付着しているのですが、バックハンドを行うときは、ボールの力に対抗するために、腕の筋肉が引き伸ばされながら収縮(遠心性収縮)します。
この引き伸ばされながら縮むというのは筋肉にものすごく負担をかけますので、付着部である外側上顆には、強いストレスがかかります。
関節包は薄いので、ストレスに弱く、損傷して瘢痕化することも。
また、短橈側手根伸筋、総指伸筋は橈骨輪状靭帯という靭帯にもくっついてるのですが、バックハンドを行うときは肘に内側へ反れるストレスが加わるため、橈骨輪状靭帯に微細な損傷を生じさせ、前腕の動きを悪くすることで、余計に外側上顆に負担をかけてしまう場合もあります。
最近では、パソコンの使いすぎによって前腕の伸筋群が緊張している方が多いので、少しの負担で痛めてしまう方が多いようにも思います。
フォアハンドテニス肘(上腕骨内側上顆炎)
フォアハンドテニス肘の場合は、手首を手のひら側に曲げる時などに、肘の内側にある「内側上顆」という所に痛みが出ます。
テニスだけでなく、ゴルフをやっている方にも多いのでゴルフ肘などとも呼ばれますが、基本的にはバックハンドテニス肘とは違い、上級者の方に起こりやすい症状です。
内側上顆には長掌筋、橈側手根屈筋、円回内筋、尺側手根屈筋、浅指屈筋という5つの筋肉が付着しているのですが、これらは主に手を掌屈したり、回内したりする時に働くため、フォアハンドのような動作を繰り返していると、付着部である内側上顆には負担がかかりやすく、炎症や微細な損傷を引き起こします。
人によっては内側上顆だけでなく、筋肉上に痛みや腫脹が出る場合もある。
さらに、上記で挙げた筋肉には肘が外側に反れる時の制動作用としての働きもあるので、フォアハンドで強烈な玉を打ち返していると、筋肉が何度も引き伸ばされるため、次第に内側上顆にダメージが蓄積します。
肘の状態を検査してみよう
それでは、実際に改善させるステップに入る前に、まずは肘の状態を確認してみましょう。
肘の痛みと言っても、自分の症状がテニス肘ではない可能性もありますので、下記の検査法を試してみてください。患部に痛みが出るようでしたら、あなたの肘はテニス肘になっている可能性があります。
※症状が酷かったり、長いことテニス肘が治らないような方は、他の疾患の可能性もありますので、一度病院で検査を受けることをオススメします。
バックハンドテニス肘の検査法
チェアテスト
腕を伸ばした状態で手のひらを下側に向け、椅子を持ち上げてもらう。
この時に肘の外側に痛みが出るようであれば、バックハンド型のテニス肘の可能性がある。
手関節伸展テスト(Thomsenテスト)
肘を伸ばした状態で手のひら側を下にしながら、手首を反らすと時に上から抵抗をかける。
抵抗に耐えている時に肘の外側に痛みが出るなら、バックハンドテニス肘の可能性がある。
中指伸展テスト
肘を伸ばした状態で手のひらを下に向けてもらい、術者が中指に抵抗をかけながら患者さんに指を反らせてもらう。
肘の外側に痛みが出るようならバックハンドテニス肘の可能性がある。
フォアハンドテニス肘の検査法
手関節掌屈テスト(リストフレクションテスト)
肘を伸ばした状態で、手のひら側を上に向けてもらい、手に抵抗をかけながら手首を上に曲げてもらう。
この時肘の内側に痛みが出るようなら、フォアハンドテニス肘の可能性がある。
肘回内テスト(フォアアームプロネーションテスト)
肘を伸ばした状態で手のひら側を上にして、手首に抵抗をかけながら手のひらを内側に回してもらう。
肘の内側に痛みが出るようならフォアハンドテニス肘の可能性がある。
テニス肘の治し方
ここからは、実際にテニス肘の治し方を解説していこうと思います。
基本的には、症状を見ながら下記の項目を一つ一つチェックしていき、患部の状態を改善させていきます。
※ここで紹介しているのも問題のごく一部ですので、実際はもっと幅広く体を見ていきます。
内側型・外側型どちらにも大切なポイント
肘関節のバランス
肘には腕尺関節、腕撓関節、上橈尺関節という3つの関節があるのですが、これらは非常に適合が良いため、少しでも関節に歪みが出てしまうと、肘の動きに悪影響を与えます。
悪影響が出た肘は、通常のようにスムーズな動きが出来なくなりますので、関節の動きが制限されてしまったり、筋肉に負担をかけ、テニス肘の症状を強めます。
そのため、テニス肘を改善させるならこの3つの関節は良い状態にしておきたいので、一つ一つの関節を検査しながら、問題を取り除いていく事が大切です。
ただし、実際には関節が硬かったり歪んで見えても、神経や他の部位からの影響で問題が起きている場合もあるので、問題の大きい所から取り組んだ方が良いと思います。
前腕骨間膜
前腕骨間膜は前腕の橈骨と尺骨の間にある膜の事ですが、橈骨と尺骨はお互いに骨間膜を介して連動していますので、ここが固くなってしまうと、肘や腕の動きに悪影響を及ぼします。
特に腕を捻るような動き(回外・回内)の時に影響は大きいですが、それ以外にも手首や肘の柔軟性にも影響してきますので、忘れずにチェックしておきたいポイントです。
実際にアプローチする際は、神経の影響も強く受ける部分ですので、全体の状態を見ながら行う必要があります。
手関節や手根骨
手首や手根骨の歪みは、腕や手の動きに影響を与えたり、前腕の筋肉に負担をかけますので、テニス肘を改善させる際は必ずチェックする必要があります。
歪み自体は神経や骨間膜の影響も受けるので、純粋に手首だけが歪んでいるわけではない場合も多いですが、テニスを長いことやっているような方はだいたい歪みがありますので注意が必要です。
また、指の状態は手根骨によって決まったりもしますので、舟状骨、月状骨、三角骨、有頭骨という骨は、特に注意して見ていったほうが良いと思います。
指や中手骨
指や中手骨は結構見逃されがちなのですが、テニス肘に影響を与える筋肉の付着部になっているため、忘れずにチェックしてあげることが大切です。
手を頻繁に酷使するような方は、筋肉や関節だけでなく、手回りの腱膜が固くなって動きが阻害されている場合もありますので、一つ一つの指を検査しながら、問題箇所を見つけていく必要があります。
胸椎や頚椎
頚椎は腕に向かう神経が出る所ですので、何となく首が歪むとテニス肘にはよくなさそうなのはわかるかもしれませんが、実は頚椎の歪みは、かなりの部分で胸椎の影響を受けています。
実際は頸に歪みが出ているように見えても、大本の原因が背骨だったという事も結構多いので、神経の働きを正常化させ、肘周りの環境を改善する意味でも、胸椎や頚椎のチェックは大切です。
バックハンドテニス肘を改善させる際に大切なポイント
バックハンドテニス肘を改善させる場合は、前腕の伸筋・回外筋群を中心とした、以下のポイントをチェックしていく必要があります。
短橈側手根伸筋
短橈側手根伸筋は上腕骨の外側上顆から中指の中手骨底という所に付着している筋肉で、
手首の強力な伸筋でもあるため、バックハンドを繰り返しているとダメージを受けます。
改善させる場合は肘関節の状態や手根骨、中手骨周りをチェックする必要がありますが、橈骨神経の影響も受けるため、下部頚椎の状態も同時に見ていく必要があります。
総指伸筋
総指伸筋は上腕骨外側上顆から2〜5指の指背腱膜という指の周りを覆っている腱膜に付着する筋肉で、指を伸ばすための最も強力な筋肉です。
指にくっついているため指の関節を一つ一つチェックしなければいけないのですが、過去突き指をした事がある方や、指を使う作業が多い方などは、日頃から筋肉が固くなっている恐れがありますので注意してください。
こちらも関節の問題に加えて、神経の影響も受けますので、頚椎の状態はしっかりと見ていかなければなりません。
尺骨手根伸筋
尺側手根伸筋は上腕骨外側上顆から小指の中手骨底という所に付着している筋肉です。
基本的には手首を反らせたり尺屈という手首を小指側に曲げる動作で働く部分ですが、テニスのグリップ等でも結構使いますので、やはり同じようにダメージを受ける筋肉です。
改善させるためには、小指側の手根骨や中手骨はかならずチェックしなければいけませんが、神経からの影響もありますので、上記と同様首の状態を確認する必要があります。
橈骨神経
橈骨神経は頸から腕を通って親指や人差し指の方へ向かう神経ですが、テニスの重要筋でもある短橈側手根伸筋、総指伸筋、尺骨手根伸筋を支配している神経でもありますので、バックハンドテニス肘の場合は特に重要です。
チェックする場所としては、頚椎や肩周りの神経の出口、橈骨神経溝と呼ばれる上腕骨にある溝、上腕筋付近、腕撓骨筋付近、回外筋周り、前腕部、手首などが挙げられるのですが、それ以外にも細かい部分で圧迫を受けている可能性もありますので、神経全体をみながら、問題となっている箇所を改善させる必要があります。
また、神経は結構敏感ですので、アプローチする際は絶対に強い力はNGとなります。
フォアハンドテニス肘を改善させる際に大切なポイント
フォアハンドテニス肘を改善させる場合は、前腕の屈筋・回内筋群を中心とした以下のポイントをチェックしていく必要があります。
円回内筋
円回内筋は上腕の内側上顆から橈骨の回内筋粗面という所に付着している筋肉で、前腕を内側に捻ったり、肘を曲げる作用を持っています。
ゴルフのスイングでかなり酷使するため、ゴルフ肘の重要ポイントだったりもするのですが、テニスで痛めた場合も、同様にしっかりと見ていかなければならないポイントです。
筋肉は、途中で尺骨にもくっついているため、肘や橈骨だけでなく尺骨とのバランスや頚椎、正中神経の状態も同時に見ていく必要があります。
浅指屈筋
浅指屈筋は上腕骨内側上顆と尺骨、橈骨という3つの部分からスタートし、2から5指の中節骨という所に付着します。
指を曲げる動作はこの浅指屈筋と深指屈筋という2つの筋肉で大部分を担っているため、テニスようにラケットを握りながら打球を打ち返すスポーツでは、疲労がたまりやすい部分だと言えます。
実際アプローチする際は、神経の状態を整えながら肘関節、手根骨、指などを見て、問題箇所を改善してく事が大切です。
橈側手根屈筋
橈側手根屈筋は上腕骨の内側上顆から人差し指の中手骨底という所に付着している筋肉で、手首を曲げたり腕を内側に捻る時に作用するため、テニスやゴルフでは特に重要な筋肉です。
頚椎、正中神経、肘、指などの状態を見ながらアプローチする必要がありますが、途中で大菱形骨という手根骨の骨を通過しますので、手首や手根骨周りも合わせて整えておく必要があります。
尺側手根屈筋
尺側手根屈筋は内側上顆から有鉤骨という骨と小指の中手骨底という部分に付着する筋肉で、手首を手のひら側に曲げたり、小指側に曲げる筋肉です。
こちらも橈側手根屈筋同様テニスやゴルフでは特に重要な筋肉で、スイングやスマッシュ動作を繰り返していると、ダメージを受けやす部分だと言えます。
筋肉自体手根骨や指に付着するので、手回りの確認は重要ですが、有鉤骨の状態は月状骨や三角骨のバランスによっても変わって来ますので、神経の状態を見ながら、これらの部分も合わせて整えていく必要があります。
長掌筋
長掌筋は内側上顆から手掌腱膜という手のひらにある腱膜に付着する筋肉で、手首を手のひら側に曲げたりする作用があります。
欠如していても機能的には問題ないと言われているため、肘を怪我した野球選手の靭帯再建手術で用いられたりもするのですが、筋膜のつながりや内側上顆に付着する点を考えると、一応チェックはしておいた方がよい筋肉だと言えます。
尺骨神経
尺骨神経は頸から脇の下を取って小指や薬指の方へ向かう神経ですが、尺側手根屈筋を支配してる神経ですので、やはりチェックが必要です。
具体的には頚椎や胸椎、腋窩、内側上腕筋間中隔、肘関節、尺側手根屈筋、手首周りなどを見ていく必要があるのですが、人によっては尺骨神経溝という溝や、肘部管、ギヨン管という場所で圧迫を受けている可能性もあるため、神経の状態を見ながら、全体をチェックしていく必要があります。
正中神経
正中神経は頸から脇を通って親指や人差し指、中指、薬指へと向かう神経ですが、円回内筋、浅指屈筋、橈側手根屈筋、長掌筋という内側上顆に付着する4つの筋肉を支配しているため、フォアハンドテニス肘の場合は特に重要です。
基本的には頚椎からの神経走行ラインをチェックしていくのですが、上腕二頭筋や円回内筋などが固くなりすぎると、神経を圧迫してしまう場合もあるので、テニスのように常に手を酷使するスポーツをやっているなら要注意です。
※稀に、肘に顆上突起があって、ストルザース靭帯と呼ばれる結合組織性の帯があることで、上腕動脈と正中神経を圧迫している方もいる。
テニスを再開する際に気をつけることは?
テニス肘の症状が改善したとしても、実際にテニスを再開するには、まだ幾つか気をつけなければならない点があります。
全身の状態を改善
肘の状態が良くなったとしても、他の部分が硬かったり、構造的に肘に負担のかかる状態だと、再び症状を引き起こしてしまうため、体の状態は必ず整えておく必要があります。
特に忘れずにチェックしておきたいのは頚椎、胸椎、肩、手首周りなど直接肘に関係してくる部分ですが、それ以外にも背骨や骨盤などが歪んでいると、スイングをする際にうまく力が伝わらず、肘に負担をかけますので注意が必要です。
適度にサポーターを使用する
肘のサポーターは肘にかかる負担を減らしてくれますので、状況に応じて、適度に使ってあげることが大切です。
よくあるものとしては、肘の近くを一周回して圧迫するものですが、これは前腕の筋群が外側上顆を引っ張る力を横に分散する働きをしてくれますので、肘に不安がある時や、テニスを再開する時は使ってあげると効果があると思います。
いきなり全力でプレイしない
患者さんの中には、症状がよくなったのでいきなり全力でプレイしてしまう方がいるのですが、今症状が落ち着いていたとしても、体が完全に治っているかはまだわかりませんので、競技復帰する際は注意が必要です。
日常生活で痛みがないレベルでも、それは負担の少ない状態での事ですので、実際に競技を行い、打球を打ち返すときはどうなるかわかりません。
いきなり全力で打つと体が耐えられない場合もありますので、まずは軽くトスしてもらったボールを当てるだけにしたり、ガットをゆるめに貼るなどして、徐々に強度を高めていく事が大切です。
まとめ
テニス肘にはバックハンド型とフォアハンド型という2つの種類があり、それぞれ痛む場所から上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎という呼ばれ方をします。
主に打球を打つ衝撃により、筋肉の付着部である外側上顆や内側上顆に痛みを引き起こすのですが、腕は日常生活でも使いますので、なかなか治りづらく、辛い思いをされている方も多いです。
そのため、セルフケアだけでは難しいのでしっかりとした施術を受けることが大切なのですが、実際に治していく際は、筋肉や関節、神経などの状態をチェックしながら、問題箇所を見つけていく必要があります。
スイング動作は全身で行う運動ですので、肘だけ見ていても治らない場合もありますが、そんな時は全体の状態をみて問題に取り組んでいけば、自ずと症状は改善されると思いますので、もし今はテニス肘の症状でお悩みなら、お気軽にご相談頂ければと思います。