アキレス腱炎の原因と対策法

ジャンプや着地、地面を蹴る時などに、アキレス腱に痛みが出てしまい炎症を起こした経験はないでしょうか?

これらの症状は、専門的にはアキレス腱炎、アキレス腱周囲炎などと言われるものですが、アスリートの場合、痛みだけでなくパフォーマンスにも影響を及ぼすので、深刻な問題です。

私が見てきた患者さんの中には、「ちょっと痛いくらいだから我慢しとけばいいだろう」という方もいましたが、アキレス腱炎は放置しておくと、後に腱の断裂にもつながるので甘く見てはいけない疾患です。

今回はアキレス腱炎に対する原因と対策法についてまとめてみましたので、放置して重症化する前に、是非参考にしてみてください。

アキレス腱炎引き起こす原因とメカニズム

アキレス腱は、下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)というふくらはぎの筋肉が、踵骨というかかとの骨に付く途中で合わさり、腱になったものです。

正常時であれば、1トンくらいの張力にも耐えられると言われているので、伸び縮み等の強い衝撃にも耐えられる構造になっています1)。

しかし、どんなに強い組織でも、体に負担がかかれば微細な損傷が引き起こされます。

通常は時間とともに治っていき、酷い痛みや炎症を引き起こす前に回復してしまうものなのですが、繰り返し負担がかかる状態だったり、体にアライメント(骨の配列)に異常があったりすると、回復力以上のダメージを受けてしまい、症状を悪化させてしまいます。

具体的には以下のような変化をたどります。

アキレス腱に強い力がかかる

組織に微細な損傷を引き起こす。

損傷部位が治る時に瘢痕化する

過度の負担がかかる状況やアライメントの異常、不適切な荷重がかかる。

瘢痕化した組織に再び負担がかかり、組織の回復以上のダメージを受ける

繰り返し損傷を受けることで、血流の減少や腱の変性が起きる。

腱の柔軟性や強さが徐々に失われる

弱くなった部分が再び損傷し、痛みや炎症を引き起こす。

また、アキレス腱部は血流が乏しいので、アキレス腱の外傷は治りにくいという事も言われています。

下腿は心臓との位置関係で、循環障害が起こりやすく、また、脛骨の中下1/3の部位は、血流が乏しいという特徴がある。したがって下腿やアキレス腱の外傷は治りにくいものである。

日本体育協会 アスレティックトレーナーテキスト Ⅰ P283より

以下に一つ一つの要因を解説していこうと思います。

アライメントの異常

アライメントとは、「骨の配列」の事を言うのですが、足関節やその周辺の関節に問題が起きると、足にかかる負担を正しく捌くことが出来なくなるので、アキレス腱に異常をきたします。

特に、足が偏平足だったり回内している状態だと、アキレス腱が真っ直ぐの状態ではなく、曲げられた状態になるため、荷重がかかるたびに内側のアキレス腱に負担がかかります。

不適切な荷重

さきほどアキレス腱は伸び縮みには強いと言いましたが、スポーツをよく行うアスリートの方は、通常とは違う複雑な運動を要求されます。

ただ真っ直ぐ飛んでそのまま着地するという事は少なく、横に飛んだり足を捻った状態で着地しなければいけないので、通常の荷重に加えて、ねじれる力が加わります。

ねじれの力は腱の繊維と平行にはかからないので、その分アキレス腱を損傷する確率があがります。

過度の負担

アキレス腱は、着地するときだけでなく、地面を蹴って前に進むときにも負担がかかる箇所です。

細かい動きやジャンプなどが要求されるサッカーやバスケットボールなどの競技では、ほぼ休みなく繰り返し負担がかかっていますので、微細な損傷を繰り返すうちに体が耐えられなくなり、アキレス腱の炎症や痛みが出てきます。

加齢や足のアライメントの状況によっては、ジョギング等の軽い運動でもアキレス腱炎を引き起こす場合があります。

アキレス腱のねじれ構造

アキレス腱の繊維は、下に行くにつれて外側にねじれるような構造をしています。

腓腹筋内側頭からの繊維は比較的平行になっていますが、外側頭やヒラメ筋からの繊維は、ねじれながら踵骨に付着している事がわかっています2)。
そのため、アキレス腱には構造上回旋するようなねじれるストレスがかかりやすいと言えます。

ねじれは腱の繊維を痛めやすくなりますので、アキレス腱炎を引き起こす要因になります。

柔軟性の低下

腓腹筋は最大で約4センチ、ヒラメ筋は最大で4.5センチ短縮すると言われています3)。これだけ大きく短縮すると言うことは、当然強い力がかかる証拠でもあります。

これは、古い輪ゴムを想像してもらうとわかるのですが、古くなったゴムは弾力性を失い、ちょっとした力で切れてしまいます。

アキレス腱も同様で、柔軟性が低下してしまうと、これだけ大きく短縮する筋肉がありますので、その分腱にも力がかかり、損傷を生じやすいと言えます。

これがもし筋肉上で起きれば肉離れですし、アキレス腱が切れてしまえばアキレス腱の断裂になります。

アキレス腱炎の対策

アキレス腱炎の対策には、主に筋肉や腱組織の柔軟性を保つことと、体のバランスを整え負担をさばけるようにすることが挙げられます。

ふくらはぎの柔軟性を保つ

ふくらはぎの筋肉を柔軟に保つことは、アキレス腱炎の対策にとても有効です。

基本的には、ストレッチやマッサージ等で柔軟性はある程度高まりますが、中には股関節や腰椎等の問題から、局所にいくらアプローチしても、状態が回復しない場合があります。

そのため、もしストレッチやマッサージで柔軟性が回復しないなら、一度腰椎の歪みや、股関節の問題を疑ってみてください。

プロが教える腰痛をしっかり治すための6ステップ」では腰周りの環境を改善させる方法が載っていますので、合わせて参考にして見てください。

アライメントを整える

アライメントは、アキレス腱に対する力の伝わり方に大きな影響を及ぼすので、ある程度整えておく事が大切です。

ただし、足のアライメントは患部をちょっといじれば良くなるというものではなく、他の部位からの影響も考え、全身を考慮に入れて整えなければなりません。(一箇所だけどうにかしようとすると、他の部位に痛みや歪みが出ます)

個人でどうこうするには無理がありますので、気になる方は一度当院にご相談ください。

全身で負担をさばけるようにする

ふくらはぎの筋肉に柔軟性が出てきても、それだけで体にかかる強い負担を捌ききる事は出来ません。

特に、足の問題は足関節はもちろん、腓骨と脛骨の可動性も重要になってきますし、股関節や腰椎、脊柱の柔軟性も大切です。

体が真っ直ぐ固まったままですと、地面からの衝撃をもろに受けてしまいますので、これらを総動員して、ショックを吸収してくれるようにしないといけません。

具体的な方法としては、プロに相談し問題箇所を調整してもらう事が1番なのですが、個人でもウォーキングなど全身をゆっくり使うような運動を行うことで、体がさばける量が増えてきます。(ウォーキングは腰椎を可動させ、全身の柔軟性を高めます)

引用参考文献
1.坂井建雄・松村譲兒(2014)プロメテウス解剖学アトラス 医学書院 P482
2.江玉睦明ほか 第13回 新潟医療福祉学会学術集会 アキレス腱のねじれ構造の肉眼解剖学的検討
3.斎藤宏(2006) 運動学 第2版 医歯薬出版株式会社 P124