腱鞘炎は手を酷使する方に多い疾患ですが、実は隠れて多いのが、産後のお母さんによる腱鞘炎です。
実際経験していない方はなんでなの?と思うかもしれませんが、産後のお母さんはホルモンの影響や育児の負担がありますので、腕には相当ダメージが蓄積しています。
それが積もりに積もると腱鞘炎になってしまうのですが、いくら自分の手が痛くなってしまったとしても、生活の中心は赤ちゃんです。
自分第一でケアができない事もこの状態に拍車をかけていますが、適切に対処する事ができれば、ひどい症状は防げるはずです。
家事と育児をこなしながら状態を改善させるのは簡単ではありませんが、少しでも参考になる部分があればと思いますので、今回は産後子育てでなった腱鞘炎について書いて行こうと思います。
産後のお母さんが腱鞘炎になりやすい原因とは?
ではまず、なぜ出産を終えた方が腱鞘炎になりやすいのかを解説していこうと思います。
背骨や骨盤が歪みやすい
これは「産後の骨盤調整・整体について」でも少し解説したのですが、産後のお母さんはリラキシンというホルモンの影響で、全身の靭帯が弛んだ状態になっています。
この弛みは数ヶ月続くのですが、その間は関節がゆるくなっていますので、ちょっとした負担でも体が歪みやすく、骨盤や胸椎、頚椎といった関節に、問題を生じさせてしまいます。
問題の起きた関節は、そこから出ている神経を圧迫しますので、手に向かう神経も緊張しやすく、腱鞘炎になりやすくなってしまうのです。
手の筋肉や神経が疲労しやすい
産後は家事や育児に大忙しなので、基本的には手が休まる時間がなく、疲労が溜まりやすい状況があります。
そこに加えて、初めてのお子さんだったりすると、育児自体に慣れていませんので、緊張してしまってり、体に変な力が入ってしまう事で、負担を倍増させてしまうのです。
特に赤ちゃんの抱っこはダメージが大きく、抱えている間はずっと力を入れておかなければいけませんので、筋肉や神経が疲労しやすく、限界を越えてしまうと、腱鞘炎になってしまう事があります。
ホルモンの影響
「背骨や骨盤が歪みやすい」の部分で、産後は靭帯が緩んだ状態になっていると書きましたが、出産後は緩んだ骨盤を元に戻すために、ホルモンの影響で靭帯や結合組織を収縮させようという働きが始まります。
この働きの影響で、手にある腱鞘も収縮してしまうため、腱鞘と腱との間が狭くなり、負担がかかると腱鞘炎になると言われています。
姿勢の問題
子育てをしていると、どうしても赤ちゃんの目線で動く事になりますので、姿勢が崩れやすくなり、腕や手に負担をかけてしまう場合があります。
特に注意してほしいのが赤ちゃんに合わせた前かがみの姿勢や抱っこで、これらは肩や背中にものすごく負担をかけてしまい、手の神経を緊張させやすくしてしまいます。
お子さんを抱っこするにしても、左右で均等に抱っこ出来る方というのは稀で、どうしても自分のやりやすい方で毎回抱えてしまうと思うので、赤ちゃんがいるお母さんを診てみると、だいたい背骨が捻じれ、いろんな所に負担がかかってしまっているのがわかります。
疲労と睡眠時間の減少による回復力の低下
産後の子育てで大変なのは、やはり夜中の授乳と夜泣きだと思います。
夜中でも数時間おきに起きなきゃいけませんし、夜泣きが始まってしまえば落ち着くまで眠ることが出来なくなってしまうため、慢性的な睡眠時間に陥り、疲労がたまってしまう場合があります。
こうなってしまうと、人間が本来もっている自然治癒力は正常に働いてくれませんので、手に負ったダメージが回復せず、再び指や手を酷使することで、腱鞘炎になってしまうのです。
産後のママさんに起きやすい腱鞘炎の症状とは?
腱鞘炎は、手首の親指側にある「腱鞘」と呼ばれる部分に、痛みや腫れ、熱感などの症状を引き起こします。
始めはちょっとした違和感だったり、軽い手の痛みからスタートしますが、ひどいと赤ちゃんを抱っこしている時にも手が痛かったり、オムツを変えるのも大変になってしまう事があるのです。
症状が進行してしまった方の場合は、痛み以外にも、親指が曲がりづらくなる場合もあります。
腱鞘炎の症状はいつまで続く?
これはその方の状態にもよるのですが、軽いものだと数週間、長いものだと数ヶ月続く場合があります。
出産によるホルモンの影響が収まってきたり、育児に慣れてくれば自然と症状も落ち着いてくるのですが、子育て中は常に負担がかかりますので、良くなったり悪くなったりを繰り返している方が多いように思います。
時間の経過と共に軽くなると言っても、何もしないとどんどん症状は悪化しますので、初期の段階で、早めに施術を受けることをオススメします。
産後のお母さんの腱鞘炎の治し方
では子育てをしている産後のお母さんは、どのように腱鞘炎を治したら良いのでしょうか。
背骨や骨盤の歪みを整える
先程、産後は体が歪みやすいと説明しましたが、靭帯が緩く体が歪みやすい状態は、言い返せば、歪みを整えるのも、やりやすい時期だと言えます。
もちろん再び歪む事もあるので定期的に調整してあげなければいけないのですが、背骨や骨盤の歪みを整えると、神経の働きが正常になりますので、組織が回復しやすくなり、腱鞘炎を改善する事にもつながります。
小さい赤ちゃんを抱っこしているお母さんは、だいたい背骨が歪んでいますので、腱鞘炎になっている時は、必ずチェックしなければいけないポイントです。
手や腕の神経を緩める
手には正中神経、橈骨神経、尺骨神経という3つの神経が通っているのですが、腱鞘炎になっている方は、ほぼ例外なくこれらの神経のどこかが緊張しています。
実際、腱鞘に炎症が起きるまでには、使いすぎによる筋肉の疲労や緊張があったり、組織の肥厚がありますので、腱鞘炎の前段階として、神経の緊張はかならず起こっていると考えてもよいかもしれません。
緩めるポイントとしては、上記のように背骨(主に頚椎や胸椎)を整えることと、神経自体を緩める方法があるのですが、個人でどうこうするのは難しい部分もありますので、症状でお困りの場合は、一度ご相談頂ければと思います。
手の神経は、手や腕のストレッチでも緩んでくれる事があります。
筋肉や関節の柔軟性を改善
手や指には多くの筋肉と関節が存在しているため、腱鞘炎を改善させるなら、これらを正常な状態にしておく必要があります。
筋肉の柔軟性は手首のストレッチなどが効果的かと思いますが、細かい筋膜の問題は自分だけでは改善が難しいと思いますので、プロにご相談頂ければと思います。
基本的には、背骨を整えたり、神経の緊張を取ればこれらの問題はなくなってしまうものもあるのですが、関節や筋肉自体がメジャーな問題になっている場合は、そこを直接アプローチしなければなりません。
湿布やサポーター、テーピングについては?
施術に通う以外にも、湿布やサポーター、テーピングで対応している方もいると思いますので、それぞれ解説していこうと思います。
湿布
腱鞘炎は手首の炎症ですので、湿布は症状を軽減させてくれる可能性があります。
簡単に貼れて安価ですので、みなさん多用している方もいるかもしれませんが、あくまでも表面から症状を抑えているだけですので、これだけで状態を改善させるのは難しいです。
使い所としては、手首の炎症が強い時や、熱感がある時に貼ってあげると良いと思いますが、しっかりと施術も受け、サポート的に使用していあげると良いと思います。
サポーターやテーピング
サポーターやテーピングは、手にかかる負担を減らしてくれたり、筋肉の補助をしてくれますので、手首が痛い時は使用してあげると良いと思います。
ただし、サポーターの多くは手首や親指を固定してしまいますので、赤ちゃんのお世話や水仕事などをする時まで、「付けていられない」という現状もあります。
実際販売されているサポーターを見てみても、手首と親指がかっつり固定されているのがわかると思います。
確かにこれだけサポートできれば体にはプラスなのですが、産後のママさんには使いづらい場合もありますので、家事や育児で邪魔にならないのであれば、使ってみても良いかもしれません。
自分で出来る対策・予防の方法は?
腱鞘炎は日頃からのケアも大切ですので、いくつかご自分で出来る方法を紹介していこうと思います。
スマートフォンの使用は控える
スマートフォンの使用は、首にかかる負担と細かい指の動きにより手の神経を緊張させやすく、筋肉や腱鞘が疲労するため、腱鞘炎を悪化させてしまう可能性があります。
たまにお子さんを抱っこしながらスマートフォンをいじっているお母さんを見かけますが、スマートフォンの使用は腱鞘炎にとっては最悪ですので、症状を改善させるためには、使用量を少なくするか、控えて頂く必要があります。
手や腕のストレッチをする
筋肉の柔軟性が回復すると、腱鞘炎の痛みも落ち着く可能性があるため、手首や腕のストレッチは、腱鞘炎の症状改善に効果的な場合があります。
やり方としては、手のひらを上にした状態で腕を伸ばし、反対の手で、手と指を床の方へ反らせていきます。
それを何秒か行ったら、今度は反対に天井の方へ手を曲げ、同様にストレッチをしていきます。
その後は手のひらを下に向けて同じようにストレッチして頂ければいいのですが、やりづらい方は、壁などを使っても良いかと思います。
ユーチューブを検索していたらちょうど良い動画がありましたので、ここで紹介しておきます。
背中を緩める
背中を緩めると、頚椎や手に向かう神経が緩んできますので、腱鞘にかかる負担も減り、症状が緩和する場合があります。
やり方としては、背中や肩甲骨を緩めるストレッチでもいいですし、「痛みで首が回らない時の対処法」で書いたように、テニスボールを使用し、背中を刺激してあげても良いと思います。
抱っこは反対側でも行う
お子さんの抱っこには、抱っこしやすい方としにくい方があると思うのですが、どちらか一方だけでかかえていると、体を歪め、同じ箇所に負担をかけてしまう恐れがありますので、気を付けなければなりません。
普段はそんな事を気にする余裕もなく育児に励んでいるかもしれませんが、症状が出てしまっている今は、更なる負担を重ねても良いことはありませんので、かならず反対側も行うように心がけてみてください。
ただし、中には体が歪んでいる事で逆側で抱っこしづらくなっている場合もあるので、そういった方は、初めに体の歪みを整える必要があります。
まとめ
産後子育て中のお母さんは、育児による手の酷使に加えて、姿勢の悪化やホルモンの影響による体の歪みから、疲労ためやすく、腱鞘炎になりやすい状態と言えます。
育児や家事はなかなか休めないですし、慢性的に疲れがたまった状態なので手の状態も回復しづらく、腱鞘炎がなりづらい方も多いです。
改善させるためには、自分でできるストレッチなどのケアに加えて、背骨や骨盤の歪みを整えたり、神経の緊張を取るといった専門的な施術が必要になりますので、症状でお悩みの方は一度ご相談頂ければと思います。