あなたは何か特定の場面で、「思い通りに指を動かせない」「体が止まってしまって今まで出来たことできない」という症状に、悩まされてはいないでしょうか?
もしあなたがこれらの症状に悩まされているなら、もしかしたらそれは、フォーカルジストニアかもしれません。
フォーカルジストニアはまだまだわからない事が多く、発生のメカニズムや治療法に至っても、更なる研究が必要な分野です。
そのため、改善の糸口が見えず、思い通りに動かない体に苦しんでいる方もいると思いますので、今回はフォーカルジストニアの原因について書いていきたいと思います。
フォーカルジストニアとは?
フォーカルジストニアは局所性ジストニアとも呼ばれ、反復して動作を行う方に多い疾患です。
一般的にはピアニストやヴァイオリニストなど、音楽家に多いと言われていますが、それ以外にも野球選手やダーツプレイヤーなど、様々な職種の方で確認されています。
症状としては、楽器を演奏する時に思い通りに指が動かなかったり、止まってしまったりするのですが、日常生活ではあまり問題が起こらないため、酷い状態になるまで周りから気付かれにくく、他人からは理解されづらいという側面を持っています。
実際病院で症状を説明しようとしても、専門分野の方以外はよく知らない場合もありますので、うまく症状が伝わらず、レントゲンを取って「問題ないよ」と言われ、終わらされてしまう方もいるのが現状です。
フォーカルジストニアの原因って?
ではフォーカルジストニアの原因とは何なのでしょうか。
一般的には、特定の動作を過剰に繰り返すことで、神経の伝達系に問題が生じたり、脳の中の身体マップに何らかの異常が起きることで引き起こされると言われています。
問題が起きた身体マップは、運動プログラムを混乱させてしまいますので、筋肉が不随意に収縮してたり、痙攣や硬直するような状態を引き起こします。
ボディマップには2つの性質があり、一つがボディスキーマという自分が感じ取った触覚、視覚、固有感覚、平衡覚、聴覚の相互作用によって作り上げられたもの。ほとんど無意識的。
もう一つは自分の体に対する認識や思い込みで作られたボディイメージというもの。ボディイメージは、自分の体が自分にはどう見えているかという、意識的な自分自身の捉え方です。
人間は体を動かす時、主に脳にある運動野と感覚野という部分を使っています。
この運動野と感覚野は、場所によって体のどの部分を司るのか決まっているのですが、指や唇のように微細な動きを行ったり、感覚の鋭い部分はその領域も広く取られています。
ですが、反復して同じ動作を行う人や、ギタリストやピアニストのように、微細な指の感覚が要求されるような方の場合、何度も繰り返し同じ動きをしていると、筋肉に命令を送る部分がうまく情報を処理する事が出来ず、これらの脳領域で混乱が起こり、症状を引き起こすのではないかと考えられています。
ではなぜボディマップの異常が起きるのか?
ここからは私自身の仮説も入っていますが、そこには構造的な問題や心理的な問題を含め、幾つかの要素が絡み合っているのではないかと考えられます。
反復運動による身体マップの肥大
反復動作を過剰に繰り返しすぎると、ボディマップに異常をきたし、運動プログラムが混乱する場合があります。
運動を繰り返すと、脳の中でよく使う筋肉群のマップが肥大し、神経の接続が活発になります。
その後、さらに練習を続けると、神経上の整理統合が行われてボディマップは一旦小さくなると言われているのですが、プロの演奏者のように、さらに高いレベルで運動を行っていると、再びボディマップが肥大してきます。
このボディマップの肥大は、高いレベルで演奏や運動をする方には必要な事なのですが、場合によっては、ボディマップ同士が重なったり癒合してしまい、体と体の境があいまいになってしまう事があるのです。
ある運動を頻繁に反復しすぎて、生物学的な脆弱性のスイッチを入れてしまうと、ついにはボディマップが機能しない、融合してしまった、変形した、支障をきたしたという事態に陥る恐れがある。
脳の中の身体地図 P117より
位置覚・運動覚等の深部感覚の異常
位置覚や運動覚などの深部感覚に異常が起きている場合、自分の手の位置や動きを把握するセンサーがズレているため、脳の中の身体マップとズレが生じてしまい、異常につながるのではないかと考えられます。
これらは、オステオパシーなど手技療法の世界では、感覚的に患者さんの感覚がズレているのを感じる場合があるのですが、このズレを感じる感覚は、神経学の世界でいうとペリパーソナルスペースと呼ばれている領域かもしれませんし、ヒーリング等の世界では、エーテル体などと言われている領域かもしれません。
多くは何かの衝撃によって起こったり、過去何かの外力が加わった事で引き起こされていますが、患者さんを触っていると、感覚のズレを感じる場合があります。
指・腕等の解剖学的問題
慢性的な痛みは、ボディマップを歪ませることがわかっています。
そのため、指や腕などに構造的な問題箇所があり、痛みが出たり運動に何かの影響が出ているような人は、普通の方よりボディマップが歪みやすく、フォーカルジストニアになる可能性が高いと言えます。
代表的なものとして手根管症候群や腱鞘炎がありますが、それに限らなくても、筋膜の歪みや癒着、関節の固着など、運動に影響を及ぼすと考えられるものは、同様に身体マップを歪ませるのではないかと思われます。
人間の指や腕には、幾つもの筋肉が平行して走行しているのですが、ピアニストやギタリストのように細かい手の動きを何度も繰り返すような人は、筋膜同士の擦れや使いすぎにより、筋膜上に微細な炎症や歪み、癒着が生じる場合があります。
これは、普通の方なら気にせず自然と治っていってしまうようなレベルのものでも、繊細なタッチを必要とされる音楽家の方には、感覚として違和感を感じるはずです。
その小さな問題を持ちながら、1日何時間もレッスンを行っていれば、自然と身体マップが歪むのは、何となく想像できるかもしれません。
神経走行上の問題
神経の走行上に何かしら圧迫するようなものがあると、そこから先の神経に障害が起き、筋力の低下や知覚の異常が起きるのですが、この筋力低下や知覚異常も、身体マップを歪ませるのではないかと思われます。
特に、上半身をよく酷使するような方は、胸郭出口症候群(肋鎖症候群、斜角筋症候群、過外転症候群など)や回内筋症候群、手根管症候群などには成りやすいと思いますので、神経が圧迫され、運動に支障をきたし、身体マップが歪む。というのは、十分考えれる事だと思います。
心理的ストレスや不安
心理的なストレスや不安は、イップス等の症状を強くすることがあると言われていますので、ボディマップにおいても、何かしらの影響をおよぼすと考えれます。
もしかしたら、これらは指や手が動きづらくなることで、後々形勢される場合も多いのかもしれませんが、演奏している時に何か心理的に引っかかる部分があったり、不安を持っていたりすると、体のコントロールに影響を及ぼすため、その状態で継続して動作を行えば、ボディマップに影響が出る可能性は十分あります。
そのため、ボディマップに影響を与える要因にはなる可能性がありますが、精神的な問題で片付けられるものではないという事をご理解ください。
ボディイメージがズレている
ボディイメージとは、簡単にいうと自分が心の中で持っている体のイメージの事です。
その人が「どのように体を認知しているか」「どういうビリーフ(思い込み)」を持っているかが重要になってくる領域で、結構みなさん自分の体を知っているようで、実は間違っているという方が多く見られます。
私が他の症状で見た患者さんの中でも、手首の曲げようとする位置が、解剖学的な構造とその人の認知の間でズレていたため、関節ではない所で曲げようと一生懸命体を動かしている方がいました。
※テレビで武井壮さんがおっしゃっていましたが、「目をつむった状態でまっすぐ手を横にあげられるようにトレーニングした」とういのは、まさにこのボディイメージを修正するための作業だったと言えます。
フォーカルジストニアに対する病院での治療
フォーカルジストニアに対する病院での治療としては、薬物治療、ボツリヌス毒素の局所注射療法、定位脳手術、鍼治療などがあります。
内科的な治療法では、筋緊張の緩和や、神経系にアプローチすることが目的とされているようですが、外科的治療法としては、脳に対して手術を行い、症状に関係する神経細胞にアプローチするようです。
こちらは東京女子医科大学の先生が書いている記事ですが、参考になりますので合わせてこちらもご覧頂くとよいかと思います。「ジストニアの治療|メディカルノート」
まとめ
フォーカルジストニアは、反復動作を繰り返す方に多い障害で、音楽家など、手を酷使する方に多いです。
まだわからない事も多く、治療法など更なる研究が必要と思われますが、現在では、神経の伝達系や脳の身体マップに、何らかの異常が起きるのではないかと言われています。
異常が起きる原因については、「反復動作による身体マップの肥大」が考えられますが、それ以外でも、ボディマップは様々所から影響を受けます。
いくつか異常の原因となりそうなものを、考察を交えて解説してみましたので、お体の状態と比べながら、参考にしてみてください。